2019年1月9日水曜日

連載21 ニイハウ・シェル・レイ


カウアイ島ノースショア

BEAD ART21号
このコラムで紹介した世界各国のビーズアートのワークショップを、Bead Art Showで数年前から開催しています。最近知ったことですが、日本にはハワイ文化に何らかの形で関わる人々が多い。フラやレイ・メイキング、キルト、ハワイアンミュージックなど、あんな小さな島々だというのに、その魅力に取りつかれた人々のなんと多いことか。
ワークショップ作品

受講者の作品

受講者の作品




私がワークショップを行っているニイハウ・シェル・レイは、ハワイ諸島の中でも一般人は立ち入り禁止のニイハウ島にのみ生息する貝を使う。カヘレラニ、モミ、ライキに代表されるニイハウシェルは、小さいものでは2mmくらいで、レイにする作業は根気が必要だ。
ヘリンボーン編みネックレスとピアス(松林作)
ピカケ編みネックレス(保証書付きニイハウシェル)

ニイハウシェルのネックレスはシンプルな物でも数十万円する、かつてハワイでは王族が正装としてつけていたロイヤル・ジュエリーで、ニイハウ島の島民によって作られた物には鑑定書も発行され、ハワイで大切に守られている伝統工芸だ。ワークショップをやっているとよく、ハワイで買ってきたというニイハウシェルを鑑定してほしいという方々がやってくるが、ざっくり言ってしまうと、ほとんどが偽物だ。偽物というか、つまり鑑定書がないものは厳密にいうとニイハウシェルではない。もちろん使用している貝はモミやカヘレラニなのだが、ニイハウ島の200人に満たない島民によって採取され、制作された作品だけにニイハウシェルの鑑定書がつく。そしてそれらは大変高額だ。それはニイハウ島の島民と文化を守るための値であって物が持つ絶対的な価値ではない。私がワークショップで使用している貝は、ニイハウ島からカウアイに移住した女性を師匠とし、その技術を受け継ぐカウアイの作家から購入したものだ。
師匠から分けてもらったシェル

見つけられるかな?

カウアイのニイハウから貝が流れ着くビーチに這いつくばってシェル採集する師匠と私



私が弟子入りした師匠の住むカウアイ島の一部に、ニイハウ島から貝が流れ着く場所がある。その白いサンゴでできた砂浜でピンク色の小さなカヘレラニを見つけることができる。この海からの贈り物は、自然な色合いや形、模様と、どれ一つとして同じものがない。そして繊細で有機的な素材は、大量生産されたガラスや金属に飽きてしまった現代人にとって、やさしく心地よく、とても魅力的だ。ハワイのレイ・メイキングは、自然に対する興味と保護の精神なくしては完成しない芸術なのだ。ハワイの文化に携わる日本人は、きっとハワイのそんなところに魅力を感じているに違いない。
ジュエリー店のニイハウシェルレイ

ビーチの反対側はすぐジャングル
「ちっちゃいもの倶楽部へようこそ」

2019年1月8日火曜日

連載24 やきものの町 愛知県瀬戸市

まんが 「ウチの庭ねこ」




BEAD ART 24号

名古屋市の北東にある瀬戸市は、1000年以上前から休むことなく連綿と焼き物作りを続けてきた町だ。その歴史を支えたのは職人と、職人たちの家に代々伝えられた技術と知識だ。しかし高度成長期にピークを迎えた窯業産業はその後オイルショックや円高、東アジアを中心とする新たな磁器生産地の台頭や後継者不足により廃業や業態転換が進んでおり、技術継承の途絶が危惧されている。そんな中で「瀬戸のやきものの現場を知って欲しい」という思いを持つ窯元や関係者により瀬戸オープンファクトリーはスタートした。
2017年11月1日と2日の2日間開催され、デザイナーやバイヤー、商社などを招待し

瀬戸オープンファクトリーの様子
















各窯元の技術や作業風景に触れて現場からインスピレーションを受けてもらい、新たなビジネスの可能性を探るという主旨だ。今回ご紹介するのは瀬戸で「猫」といえばここ、と言われる、瀬戸オープンファクトリー主催者の一つ夢工房柴田隆製陶所さん。工房内は猫猫猫猫、猫であふれている。猫の湯飲み、猫のご飯茶碗、ありとあらゆる食器に猫が描かれている。そして尻尾も別パーツで作るこだわりよう。


そして工房の中でビーズの雑誌にピッタリなものを見つけた。猫のセラミック・ペンダントヘッドだ。ビスケットのような生地にアイシングのような釉薬。ガラスやプラスチックにない素朴で食べ物のように美味しそうな感触が目に新しい。しかもこの手のペンダントヘッドにありがちな、裏表がひっくり返るのを防ぐ工夫も凝らしてある。こちらの工房では
最低ロット30個からオーダーを受け付けてくれるので、自分の飼い猫の模様に絵付けしてもらうことも可能だ。

色々な模様の猫たち。セミオーダーも可能。



ひっくり返り防止機能つき。


猫のセラミックペンダントヘッドを使ったネックレスを作ってみた。
(長さ調節機能つき)

高度で多様な技術を持つ瀬戸は、焼き物に関してどのようなニーズにもこたえることができる。しかし多くの窯元は分業化が進んでおり、クリエイターやデザイナーには全くアクセスがなく、閉ざされた世界だった。私が7年前から瀬戸で始めたプロジェクトも、閉鎖的な体質の窯元も多く、プロジェクトは時間もかかり難航した。今回のようなイベントがあればもっと簡単にプロジェクトは進んだことだろう。瀬戸オープンファクトリーによってどんな化学反応が起きるのか、とても楽しみにしている。

連載23 19世紀ヨーロッパ婚活女子事情

Miser's purse (けちんぼ財布)

19世紀ヨーロッパ婚活女子脳内メーカー


BEAD ART23号


18世紀末から20 世紀初頭まで流行したマイザーズ・パース (けちんぼ財布)に出会ったのは、名古屋ボストン美術館のパリジェンヌ展だった。展示されていたマイザーズ・パースはカットが施された極小ビーズで編まれたコイン入れで、19世紀頃のオシャレなパリジェンヌの持ち物の一つとして展示されていた。20cmくらいのビーズで織られた筒状で、中心に銀のリングが二つ、両端にはビーズのフリンジで飾られていた。それはとても魅力的ではあったけれど、説明を読むまで使用方法どころか用途すら想像できなかった。


クロッシェでシルバーのビーズを使って編まれたマイザーズ・パース(フランス製)
マイザーズ・パースは、細長い筒状の袋で、中心のスリットからリングをスライドさせてコインを取り出す仕組みだ。その呼び名は「けちんぼ財布」以外にも「リング財布」「ストッキング財布」などの名前で呼ばれた。また、ある説によると、中世ヨーロッパでストッキングにコインを入れて持ち歩く習慣があったことからこの形状になったと言われている。けちんぼ財布の名前の由来は定かではないが、一度に一枚ずつしかコインが取り出せないことや、コインが落ちないようにしっかり口を閉じるように工夫されたデザインだからではないかと考えられている。

シルバーのリングをスライドさせて中心のスリットからコインを取り出す仕組み


二百年近くフランスやイギリスで流行し、男性も女性も身につけた。当時は電気もなく、暗い場所でも手探りでコインを取り出すこともあっただろう、ビクトリア時代には両端を異なる形にして金貨と銀貨などを別々に入れるタイプも流行した。
マイザーズ・パースのほとんどは一般女性による手作りで、シルク、コットン、ウールの糸を使い、ビーズクロシェで編まれた物や、ビーズ織りのものなど、ビーズを使ったものが多い。贈り物として喜ばれるアイテムだったため、 19世紀中頃からは作り方を掲載した本も出版された。
この時代の女性のアクティビティとしてマイザーズ・パース作りは人気があったようで、18世紀から19 世紀のイギリス女性の結婚事情を描いたジェーン・オースティンの『高慢と偏見』にも当時の女性のたしなむ手工芸の 1つとして登場人物の会話にあらわれている。ジェーン・オースティンの生きていた時代、中流以上の女性は一般的に仕事をもつことができなかったため、結婚が唯一の選択肢だった。このようなビーズ工芸も当時女性のたしなみとして、音楽や絵画などとともに婚活の一環であった。
変わったデザインのマイザーズ・パース(イギリス製)


おそらく糸とビーズが余ったのでポーチもついでに作ったんじゃないかと想像する。
マイザーズ・パースは当時ほとんど手作りだった。



連載25 フィリピン パラワン島の真珠

パラワン島 フィリピン

パラワン島

BEAD ART25掲載



CNN トラベルやニューヨークタイムズ等の海外メディアで理想的な旅行先として話題のパ
ラワン島は、フィリピンの西にある細長い島だ。なかでもエル・ニドは最も有名なリゾー
ト地だが、最近は観光地化が進みクオリティーが下がりつつあるといった話も聞く。私た
ち夫婦は静かなリゾートが好みなのでガイドブックに載っていない、ある隠れ家リゾート
に滞在した。
リゾートホテルのアウトリガーで探検

誰もいないビーチに上陸

誰もいないビーチ

ホテル専用の入り江


美しい海にかこまれたパラワン島では南洋真珠を養殖していて、観光客のお土産として人気だ。真珠は島の一番大きな町で空港のあるプエルト・プリンセサのマーケットなどで買うことができ、観光客の多くはここで真珠を買ってゆく。しかし気を付けなければいけないのは、ここで売っている真珠のほとんどは中国産の淡水真珠で、パラワン島の真珠はほんのごく一部でしかない。そして驚くことに、店によっては店員が産地や淡水真珠、海水真珠の違いすら分からないことがある。
ホテルのスタッフに教えてもらった信頼できる店のパラワン産真珠

大粒ゴールド南洋真珠(パラワン産)

わりとしっかりした店でもこんな感じ
きちんとした店ではパラワン島産の真珠を取り扱っているが、当然ながら質の良いものは高価だ。大粒のパラワン島産真珠は一粒 2,000 円~60,000 円くらいとピンキリで、日本の真珠同様に形、色、傷の有無、巻き、照り、などにより価格は上下する。私はキリの方を買った。最近欧米からの観光客に真珠とマクラメやレザーなどとの組み合わせが人気で、レザーを通すために直径 5mmくらいの大きな穴があけてあるものもあった。12mm以上の大粒南洋真珠だからこそできるデザインだ。



















プエルトプリンセサ近辺のMCAマーケット内

ほとんどが中国産淡水真珠



 大粒のバロック淡水真珠500円くらい


MCA Market Mall は空港に近く、真珠や工芸品などのお土産を買うのにとても便利だ。空港
から歩いても行けるが、その日は雨だったので、空港でお客をおろしたばかりのトライシ
クル(原付にサイドカーを取り付けたタクシー)の兄さんをつかまえて「マーケットまで
往復 100 ペソ(およそ 200 円)払うから、買い物が終わるまで待っていてくれる?」と聞
いたらとっても嬉しそう。相場の 5 倍くらいだったようだ。
トライシクルのお兄さん

日本では真珠というとホワイトからピンク系がポピュラーだが、フィリピンではゴールド
カラーが人気だ。私もこの島に滞在して分かったが、フィリピン人の小麦色の肌にはゴー
ルドカラーがよく映える。そして毎日ビーチであそんで、すっかり日焼けしてしまった私
には白よりゴールドのほうがしっくりくる。
パラワン産の大粒南洋真珠で作ったネックレスとブレスレット




フィリピンのリゾート地で大量発生中の
男子おだんごヘア、「マン・バン」(man bun)

2019年1月7日月曜日

連載26 海藻ジュエリー

海藻ジュエリー




左:ブレスレット ヒジキやアカモクなど、おなじみの海藻を使ってみました。
スピネルの原石を封入して岩場の雰囲気を演出。

右:あこや真珠のケシを埋め込んだリングと志摩のあこや真珠とルビーの原石を埋め込んだリング


BEAD ART26号に掲載されたコラム

三重県鳥羽市
三重県鳥羽市の石鏡で海女をやっている佐藤梨花子さんに初めてお会いしたのは、5年ほ
ど前に携わった三重県の真珠を使ったサステイナブル・ジュエリーのお披露目パーティー
だった。当初は都会の OL さんという印象だったのに、最近 Facebook のアップデートで数年前から鳥羽市石鏡で海女になっていたことを知った。
そこで 2018 年 3 月、鳥羽市立海の博物館で開催された、野田三千代さんの作品展「海を彩る海藻の森~ seaweeds art」とともに開催されたワークショップ「海藻おしばアート作り」に、ご近所の梨花子さんを誘って参加した。野田三千代さんは女子美術大学の同窓生で、同窓会を通じてご活躍を知り、いつかワークショップを受けてみたいと考えていた。実は私、母が青森県大間出身で、海藻にはちょっとだけ詳しい(食べられる海藻限定)。海藻おしばワークショップは、小さな子供からお年寄りまで、参加者の年齢も様々。海の森の大切さや海藻について野田さんのお話を聞き、20 種類以上の色とりどりの海藻に触れるワークショップは大盛況であった。
重力の制約を受けない自由なフォルムと宝石のような透明感のある色彩が脳裏に焼き付き、私は海藻を使ってジュエリーを作ってみたいと考えた。ハワイの伝統工芸ニイハウシェル・レイの時も感じたが、自然の材料を採取して作品を作るには、自然に対する興味、共感とリスペクト無しには完成しない。
海女の梨花子さんにお願いして、材料になる海藻採取にご協力頂くことにした。
石鏡の浜に漂着した海藻 

石鏡港は映画ゴジラで、ゴジラが初めて日本上陸した場所のロケ地


梨花子さんの住む石鏡は小さな漁港があり、人口は 470 人くらいの漁師と海女の町だ。訪れたその日はちょうど町内総出のひじき漁で、いたるところにひじきが干してある。漁港のスペースでは足りずに町から少し離れた展望台のヘリポートいっぱいひじきが干してあるのは壮観だ。
港いっぱいに干してあるヒジキ

石鏡の海女平均年齢は 76 歳位。港で居酒屋を 40 年以上経営する女将さんのお話では、昔は海女の収入があるため男性はあまり働かず、昼間から居酒屋で飲んでい
たらしい。しかも酒は注文するものの、つまみの魚は全て持ち込みであったとか。そして、もともと町内総出のヒジキ漁は、獲物がない時期の海女の収入源であったそうだ。
翌日は海女が信仰する神明神社に行ってきた。石神さんの愛称で呼ばれる神明神社の末社
の一つ石神社は、女性の願いなら必ず一つだけ叶えてくれると言われ、全国から女性の参
拝客が絶えない。私は新設の海女みくじを引いてみた。『大漁。アワビがよーけ採れたわ。』と。当たっている。
女性の願いなら必ず一つだけかなえてくれると評判の石神さん


神明神社の参道には海女さんがヒジキなどの海藻を売っている。海女さん達とお話する度にヒジキやらアラメやらワカメを買うため、カバンが海藻でパンパンだ。いろんな意味で大漁の旅だった。

毎日アカモク・ヒジキ・アラメ祭り!