Miser's purse (けちんぼ財布)
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19世紀ヨーロッパ婚活女子脳内メーカー |
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BEAD ART23号 |
18世紀末から20 世紀初頭まで流行したマイザーズ・パース (けちんぼ財布)に出会ったのは、名古屋ボストン美術館のパリジェンヌ展だった。展示されていたマイザーズ・パースはカットが施された極小ビーズで編まれたコイン入れで、19世紀頃のオシャレなパリジェンヌの持ち物の一つとして展示されていた。20cmくらいのビーズで織られた筒状で、中心に銀のリングが二つ、両端にはビーズのフリンジで飾られていた。それはとても魅力的ではあったけれど、説明を読むまで使用方法どころか用途すら想像できなかった。
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クロッシェでシルバーのビーズを使って編まれたマイザーズ・パース(フランス製) |
マイザーズ・パースは、細長い筒状の袋で、中心のスリットからリングをスライドさせてコインを取り出す仕組みだ。その呼び名は「けちんぼ財布」以外にも「リング財布」「ストッキング財布」などの名前で呼ばれた。また、ある説によると、中世ヨーロッパでストッキングにコインを入れて持ち歩く習慣があったことからこの形状になったと言われている。けちんぼ財布の名前の由来は定かではないが、一度に一枚ずつしかコインが取り出せないことや、コインが落ちないようにしっかり口を閉じるように工夫されたデザインだからではないかと考えられている。
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シルバーのリングをスライドさせて中心のスリットからコインを取り出す仕組み |
二百年近くフランスやイギリスで流行し、男性も女性も身につけた。当時は電気もなく、暗い場所でも手探りでコインを取り出すこともあっただろう、ビクトリア時代には両端を異なる形にして金貨と銀貨などを別々に入れるタイプも流行した。
マイザーズ・パースのほとんどは一般女性による手作りで、シルク、コットン、ウールの糸を使い、ビーズクロシェで編まれた物や、ビーズ織りのものなど、ビーズを使ったものが多い。贈り物として喜ばれるアイテムだったため、 19世紀中頃からは作り方を掲載した本も出版された。
この時代の女性のアクティビティとしてマイザーズ・パース作りは人気があったようで、18世紀から19 世紀のイギリス女性の結婚事情を描いたジェーン・オースティンの『高慢と偏見』にも当時の女性のたしなむ手工芸の 1つとして登場人物の会話にあらわれている。ジェーン・オースティンの生きていた時代、中流以上の女性は一般的に仕事をもつことができなかったため、結婚が唯一の選択肢だった。このようなビーズ工芸も当時女性のたしなみとして、音楽や絵画などとともに婚活の一環であった。![]() |
変わったデザインのマイザーズ・パース(イギリス製) |
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おそらく糸とビーズが余ったのでポーチもついでに作ったんじゃないかと想像する。
マイザーズ・パースは当時ほとんど手作りだった。
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